旅立ちとは過去から自由になることだと思う。――『旅立ちの時』 リヴァー・フェニックス主演
旅立ちとは、過去から自由になることである。決して捨てるのではなく、旅立つためには、現在の自分を形成してきた過去に向き合い、受け入れる必要があるのではないか。
主人公(リヴァー)の過去は両親である。両親、そして自分の境遇を受け入れるために自分を押し殺してきた。結果として自分と向き合うことを避けて日々を過ごしてきた。しかし、彼は自分の夢に気付き、かなえるための道筋が見えたとき、初めて自分に、自分の境遇に苦悩する。しかし父親という壁の前に委縮し、自分を押し殺そうとしていた。
彼の両親の過去は若かりし頃の過ちである。しかし、自分たちは信念を持って正義を貫いたと考えている。決して自分たちは間違っていないのだと十数年間もの間、お互いに支えあい、家族で団結して生きてきた。しかし、正義を貫くためとはいえ、自分たちの行動は間違っていなかったのかという考えがよぎる。長年、顔も合わせることもできずに心配をかけている老いた両親(主人公の祖父母)、文句を言わずに自分たちに従って成長してきた息子2人。彼らに対して与えている犠牲は自分たちが正義を貫くためなのか。自分たちの自己愛のためではないかという考えが浮かんでは、間違っていないのだと自分たちに言い聞かせている。
やがて主人公は、彼の隠している夢に気付き、応援してくれる恋人に出会う。主人公は、それまで誰にも打ち明けることのできなかった自分を彼女にさらけ出すことができてから、自分自身と向き合うようになる。そんな息子の変化に気付き、両親も自分たちの過去と向き合い始める。そして、「家族の団結を大切にする」と言いながら、自分たちのために息子を縛り付けているのではないか、と葛藤する。
家族と離れ、夢を追いかけることは息子にとって困難な道かもしれない。自分たちにとっては、とてつもなく苦しい現実を受け入れる道である。それでも父親は、自分たちのものではない、息子自身の人生を歩めるように背中を押す決心をする。
ハッピーエンドではない。
しかし、彼らは自分たちの過去から自由となり、笑顔で旅立つ姿が印象に残った。
自分と向き合うことは苦しいことであると感じている。
しかし、いつの間にか歳をとっていき、自分自身も、取り巻く環境も変化していく。
そのとき、過去の自分と向き合い、次のステップに進まなければならない。
過去から逃げ続けていてもいずれ破綻してしまう。未来へ進むため、自分自身と向き合うために背中を少し押してくれる作品だと思う。
リヴァー・フェニックスの最新作
『ダーク・ブラッド』予告編
これから挑戦!明治維新〜日露戦争を司馬遼太郎で読む―勝手にオススメまとめてみました―
みんな知ってる司馬遼太郎の著書で明治維新~日露戦争までを追っていくとすると……
①まずはこちら。『世に棲む日日』全4巻
吉田松陰の思想から,後半は高杉晋作の倒幕活動が描かれています。
松下村塾から奇兵隊。長州人の視点からの様子が伝わってくるようです。
世に棲む日日〈1〉 (文春文庫) | ||||
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②次は一番有名?な『竜馬がゆく』全8巻
現在の坂本龍馬像はほとんどこの本の影響と言って過言ではない!
様々な有名なエピソードは,実は司馬遼太郎によって想造?されたものも多くあるというそうです。
竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫) | ||||
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③明治維新後から西南戦争までの『翔ぶが如く』全10巻
今度は,薩摩藩出身の西郷隆盛と大久保利通を軸に時代の動きを捉えて行きます。
全10巻ということで挫折してしまう人も多いようです。
これを読んでこそ司馬遼太郎ファン。ぜひチャレンジを。
翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫) | ||||
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④日清戦争のあたりから日露戦争までを描いた『坂の上の雲』全8巻
こちらは伊予の松山藩の出身の秋山好古(よしふる),真之(さねゆき)兄弟。それぞれ陸軍,海軍。そして文学の世界で活躍した正岡子規(しき)の3人を主人公に明治時代から大正時代を駆けぬけていきます。
後進国から先進国へと追いつこうという時代の息遣いを感じることができます。
しかし,その後の太平洋戦争へと繋がる暗い部分を暗示しながら物語は終えています。
坂の上の雲〈1〉 (文春文庫) | ||||
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以上が,私の勝手なオススメな司馬遼太郎で読む明治維新~日露戦争の本たちです。
もし,司馬遼太郎,幕末,明治維新に興味がある!という方がいらっしゃれば,紹介した順番に読み進めると時代がつながっていくと思います。
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上で紹介した4作品の他にも,時代を並行しますが,違う視点で描かれた司馬遼太郎作品があります。
番外編として紹介します。
高杉晋作の亡き後,長州藩の奇兵隊の頭脳となり,さらに官軍の戦略家?参謀?として戊辰戦争で活躍した大村益次郎を主人公として描いた『花神』上・中・下の全3巻。
海外からなどの知識を広くを蓄え,自分たちに合うようにと取り込んでいった貪欲な向上心。
三田にある大学の創始者とも適塾つながりがあったりなどくすぐられるエピソードも。
花神〈上〉 (新潮文庫) | ||||
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対する幕府側の視点で描かれたのが『峠』
越後長岡藩の家老,河井継之助が主人公となりたんたんと描かれています。
大村益次郎と対照的に,物事を考える際には深く深く掘り下げていく河井継之助には信念を感じます。この2作品はセットで読むと興味深いと思います。
峠 (上巻) (新潮文庫) | ||||
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新撰組。言わずもがなの幕府側からの視点で幕末を描いたのは,
燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫) | ||||
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新選組血風録 (角川文庫) | ||||
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そして,先のエントリで紹介した『世に棲む日日』から『坂の上の雲』までの時代を生き抜いた乃木希典(まれすけ)の殉死を描いた『殉死』
奇兵隊で戦い,西南戦争,日清戦争,そして日露戦争にも陸軍大将として参加し,英雄視された人物。
しかし,司馬遼太郎がこき下ろした?ことにより様々の論争が起こったという問題作。
殉死 (文春文庫) | ||||
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以上が私のオススメ幕末~日露戦争までの司馬遼太郎オススメ書籍番外編でした。
他にも短編を含めればまだまだ取り上げられています。
もし興味が湧いた方は探してみてください。
今回紹介した本の一覧です。
『弱者の居場所がない社会』を読んで
弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書) | ||||
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目次
プロローグ 社会的包摂と震災
第1章 生活崩壊の実態
第2章 「最低生活」を考える
第3章 「つながり」「役割」「居場所」
第4章 本当はこわい格差の話
第5章 包摂政策を考える
第6章 インクルーシブな復興に向けて
貧困から社会とのつながりを断たれ,「社会的排除」の状態に追い込まれる人々を生み出してしまっている現在の日本社会について書かれた本である。
自分が一番気になったのが「いざというときに頼れる人がいるか」という部分である。いざというときに頼れる人間関係を「社会サポート」と言うらしい。
社会サポートとは,実際に必要なときにさまざまな支援が期待できる他者のことを言う。具体的には,病気のときに看病してくれたり。悩みの相談にのってくれたり,就職のコネを提供してくれたり,お金を貸してくれたり,緊急時に子どもを預かってくれたりする人のことである。会話や会うことだけであれば,趣味のサークルやボランティア活動,インターネットでのチャットなどによって解消されるが,社会サポートには,より厚い信頼関係,互助関係に基づいた関係の相手が必要である。(p.104)
自分は,山奥から高校卒業と同時に都内に出てきた田舎者である。もちろん都内には親戚がいるわけではなく一人暮らし。「いざというときに頼れる人」はいなかった。しかし,しばらくして一応は友人ができた。学校で,趣味のアウトドアのサークルで,ボランティア活動で。まさにここに書かれている通りに友人関係を築いたわけである。
しかし,より濃い人間関係,社会サポートを期待したりお願いしたりすることができる人がいるかと言えば,友人には引っ込み思案なのか,プライドが高すぎるのか深刻なことは頼むことはできない。唯一は,元の恋人である。
彼女とはもう何年か前に,将来的なことを考えることができない(自分が仕事を辞めたり,年齢的なことだったり,宗教的なことだったり)ということで恋人関係は解消したのだけれど,「君が一人じゃ心配だ。」といろいろ世話を焼いてもらっている。収入がない(現在無職)ので,ちゃんと食事をしないということで夕食に呼ばれたり,お弁当を作ってくれたり。
何が言いたいのかわからなくなった。
他人に社会サポートをすることはかなりの負担であり,覚悟もいるのではないだろうか。経済的に見通しがつかず,社会全体に余裕がなく,ヘイトスピーチや,生活保護受給者をはじめとする弱者を叩くような現象が目立つ最近,他人を社会サポートできるような余裕は人々のどこから起こすことができるのだろうか?著者の言う構造を変化させるにはどうすれば良いのか。制度を変えるべく政治に訴える。市民の中から草の根的に意識改革をしていく。なんてことしか思いつかないけれど,実際に社会が変わるなんて可能なのだろうか。
社会が変わるかどうかはわからないけれど,明日にでも自分が社会的排除されてしまうかもしれないということはリアルである。自分だけでなく,いわゆる「勝ち組」の人々であっても同じだと思う。そのことに気付き,意識して生活していくことからはじめなければと考えさせられた。
弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)
- 作者: 阿部彩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/12/16
- メディア: 新書
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